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2013-09-12

ソース(記事原文):デコーデッド・サイエンス

オキシトシン:自閉症の人に「ラブホルモン」が有用?

デコーデッド・サイエンス(2013年9月12日) ― テュ・アン・リ(THU ANH LE)著

オキシトシンはとても強力なホルモンです。このホルモンは多くの社会的行動・親としての行動・ストレス関連行動において重要な神経伝達物質であり、セックス、出産、母体ケア、社会的認知、きずな形成の際に濃度が高まるため「ラブホルモン」と呼ばれています。これまでに発表された研究だけでなく、今回の新しい研究もオキシトシンと自閉症の関連性を証明しています。

自閉症とオキシトシン:研究

自閉症スペクトラム障害はしばしば、オキシトシン濃度の不足やオキシトシン受容体の変異と関連付けられます。

・例えば1998年の研究では、自閉症の子どもは正常な子どもと比べてオキシトシン濃度が有意に低いことが分かりました。
・2003年の別の研究では、オキシトシンの静脈内投与で一部の反復的行動が軽減することが分かりました。
・さらに2007年の研究では、自閉症の成人が「会話のイントネーションの情動的意味を判断する」のをオキシトシンが助けることが分かりました。

研究者たちは、オキシトシンが抑制性ニューロンの発火を増強することは発見していますが、抑制の高まりが脳の情報処理にどう役立つのかは分かっていませんでした。

新しい研究で、オーウェンら(Owen et al.)は「オキシトシンが皮質の背景活動を低下させつつ情報伝達を強化するという、シンプルながらも強力なメカニズムを説明」するとともに、「拡散的に送達される神経修飾物質が神経回路のパフォーマンスを改善する仕組み」を明らかにしました。

電気生理学的に反応を測定

オーウェンらは電気生理学的に、海馬の一部(CA1)のニューロンの電気活動を測定しました。電極を使ってシャッファー側枝を刺激して、興奮性の錐体細胞と抑制性細胞の両方を活性化させました。

ニューロンはしばしば「ノイジー(ノイズが多い)」といわれ、外部刺激がなくても発火するのが普通です。そのせいで正しい情報の見極めが難しくなるため、関心あるシグナルは強く、背景ノイズは弱いことが必要になります。

オキシトシンがどのように働くのか調べるため、オーウェンらは海馬のCA1領域につながる軸索を刺激して、人工情報を生じさせました。オキシトシン様分子(TGOT)でオキシトシン受容体を刺激したところ、興奮性ニューロンは次のニューロンへのシグナル伝達がかなり向上しました。これが忠実度を高め、情報を得るにつれて他の受信側ニューロンに良い変化をもたらします。ベースラインの測定値と比較すると、興奮性ニューロンの活動は減少しました。

この研究者らはさまざまな化学遮断物を使用し、電気生理学的にも調べて、抑制性ニューロンの一種であり自発発火が比較的豊富で強力な高速発火介在ニューロン(FSI)を見つけました。これが全体的な抑制状況を生み出し、背景ノイズを減らします。

自閉症治療:この研究の意義

リチャード・チェン博士(Dr. Richard Tsien)は、ニューヨーク大学ランゴン医療センター(NYU Langone Medical Center)の神経科学・生理学部(Department of Neuroscience and Physiology)の学部長かつ教授であり、神経科学研究所(Neuroscience Institute)の所長も務めています。博士によれば、FSIはオキシトシンによって活性化される唯一の神経集団です。この活性化が起こるとFSIの発火速度が高まり、結果的に背景ノイズが減少してシグナルが増強します。チェン博士は『デコーデッド・サイエンス(Decoded Science)』に、「ある細胞タイプを活性化すれば背景ノイズの減少とシグナル増強の両方ができるというのは事実であり、これが今回の所見を刺激的にしている」と話します。

このノイズ減少は、FSIの発火速度が上がってさらなる抑制が起こることで、自発的なノイズが減少するために起こります。シグナル伝達の増強については、まだ十分に理解できていません。フィードフォワード抑制活動として、「海馬回路は興奮とともにFSIを利用」します。

チェン博士はこれを、「片方の足は車のアクセルに、もう片方はブレーキに置いて交互に足を使い、適度な加減で車を前に進めるドライバーのようである。ほぼ同じように、海馬回路は興奮するとすぐさま抑制も行い、アクセル的活動をブレーキ効果によって切り上げることで、正確なタイミングを達成する」と説明します。

オキシトシンによる抑制性ニューロンの発火は、結合の疲弊を招きます。これは、「長い下り坂でブレーキをかける足を絶えず使ったせいで足が疲れる」のと似ています。したがってシグナルが回路に到達すると、通過するシグナル量は多くなり活動が生じます。このため、より確実な方法で情報が通過することになります。

これは自閉症にとって何を意味するのか?

オキシトシンは海馬における情報伝達を強化して、自発的な背景ノイズを減らします。自閉症では、脳の情報回路の先鋭化がうまくいっていません。自閉症の人はオキシトシン濃度が比較的低いため、結果としてシグナルやノイズの処理がうまくいかないと考えられます。

このトピックについての研究は始まって間もないため、自閉症の人に役立てる前に、やるべきことがまだたくさんあります。

オーウェンらの予備的所見はオキシトシンと神経活動の強い相関を示唆していますが、さらに多くの研究で、この関係性を前進させて裏付けることが必要です。

オキシトシン点鼻薬と自閉症治療の今後

自閉症とオキシトシンの関連性が確立された今は、もっぱら追加的研究が行われています。例えば、自閉症と、出産を促進するピトシン(オキシトシンの商品名)の関連性を示した最近の研究もそうです。現在は、自閉症の人のソーシャルスキルやコミュニケーション改善に役立つことを期待して、オキシトシン点鼻薬を使用した大規模な臨床試験があります。これが誰にでも効くのかははっきりしておらず、オキシトシンの効果を得られる人や、ベストな投与方法を検討するために研究が進められています。

ニューヨーク大学ランゴン医療センターの研究者らは、引き続き、オキシトシンが脳に及ぼす効果だけでなく、脳の病理や病的状態というその他多くの領域についても研究しています。


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